第一章 あやめの嫁入り

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 僕は席を立ち、食器棚を漁った。  おっ、あったあった。こっちの方が食べやすいだろ。  取り出したのは、先が尖っている子供用のスプーンだった。席に戻って、それをあやめへと差し出す。 「これ使って食べるといいよ」  言いながら、スプーンを掴んで食べる仕草をして見せた。 「……ありがとう」  あやめは子供みたいにグーでスプーンを掴み、パクパクと食べ始めた。食べ物を口に入れる度に幸せそうに笑うものだから、僕は自分が食べるのも忘れてその姿に魅入ってしまった。  ああ。なんだかお父さんになった気分だな。  なんて、そんなことを想いながら――
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