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人形のように可愛らしいその姿のせいか。はたまた、謎の存在に対する危機感か。僕の心臓は大きな音を立て、強く脈打っていた。
「……っ!」
なんだ?
ふいに胸の奥に鈍い痛みが走った。ドキドキしていたせいかと思ったが、違う気がした。今朝見た夢が、喉元まできているのに思い出せない時のような、そんな感覚に包まれる。
「…………ゆず……き?」
ふと、ぽそぽそと耳がくすぐったくなるようなか細い声で、彼女が言った。
驚きを隠せなかった。だって、僕の名前は、神流手柚希というのだから。
なぜ彼女が僕の名前を知っているのかはわからなかったが、とりあえず首を縦に振ってみた。すると、途端に少女の藍色の瞳が丸くなった。
そして、彼女は表情を崩し、大粒の涙を浮かべて僕に抱きついてきた。
「いっ!?」
「ゆずき……ゆずきい。やっと……会えたっ!」
な、何なんだよ、この状況は……。
僕は戸惑いながらも、腕の中で泣く少女の小さな背を、あやすようにポンポンと叩いた。その時、ただでさえ困っているこの状況下で、視界の端で更に困ったものが見えた気がした。
「ま、マジかあ……」
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