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それは、少女の頭とお尻の辺りに取り付けられた、飾りと思わしき狐耳とふわふわの尻尾。ただ付けているだけなら特に問題はない。だが、この耳と尻尾には大きな問題があった。そう、動いているのだ。それも、ピョコピョコ、フリフリと盛大に、だ。
嗚呼、誰か嘘だと言ってくれ……。
僕は思わず頭を抱えた。その動きは、どう見ても本物だった。
「なあ、君は一体何者なんだ?」
「……あやめ。御稲荷……あやめ。わたしの……名前」
少女は顔をあげ、腫らした目を擦ってそう言った。
どうやら、彼女はあやめという名前らしい。
「じゃあ、あやめ。質問してもいいか」
「……? うん、いいよ」
「えっと、もしかして君は……人間じゃなかったりする、のか?」
あまりに非日常的質問だと思う。でも、そう聞くしかなかった。
そして案の定、あやめは首を縦に振った。
「……うん、そうだよ。わたしは、おいなりさん」
「お、御稲荷さん?」
「そう。妖怪……なの」
妖怪――と、俄かには信じがたい単語を、彼女は口にした。
僕に霊感の類はない(はず)。幽霊も妖怪も、未だかつて見たことが無いし。でも、なんでだろう。この子が嘘を言っているように思えない。
「それで? その妖怪さんが何の用で僕の元に?」
「ゆずきに……会いに来た」
「僕に?」
聞き返すと、あやめはコクリと頷いた。
「……わたしね、小さいころに告白されたことがあるんだ。好きだよって」
「へ、へえ」
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