第一章 あやめの嫁入り

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 それは、少女の頭とお尻の辺りに取り付けられた、飾りと思わしき狐耳とふわふわの尻尾。ただ付けているだけなら特に問題はない。だが、この耳と尻尾には大きな問題があった。そう、動いているのだ。それも、ピョコピョコ、フリフリと盛大に、だ。  嗚呼、誰か嘘だと言ってくれ……。  僕は思わず頭を抱えた。その動きは、どう見ても本物だった。 「なあ、君は一体何者なんだ?」 「……あやめ。御稲荷(おいなり)……あやめ。わたしの……名前」  少女は顔をあげ、腫らした目を擦ってそう言った。  どうやら、彼女はあやめという名前らしい。 「じゃあ、あやめ。質問してもいいか」 「……? うん、いいよ」 「えっと、もしかして君は……人間じゃなかったりする、のか?」  あまりに非日常的質問だと思う。でも、そう聞くしかなかった。  そして案の定、あやめは首を縦に振った。 「……うん、そうだよ。わたしは、おいなりさん」 「お、御稲荷さん?」 「そう。妖怪……なの」  妖怪――と、俄かには信じがたい単語を、彼女は口にした。  僕に霊感の類はない(はず)。幽霊も妖怪も、未だかつて見たことが無いし。でも、なんでだろう。この子が嘘を言っているように思えない。 「それで? その妖怪さんが何の用で僕の元に?」 「ゆずきに……会いに来た」 「僕に?」  聞き返すと、あやめはコクリと頷いた。 「……わたしね、小さいころに告白されたことがあるんだ。好きだよって」 「へ、へえ」     
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