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「あのさ。さっき、わたしたち──って言ったよな? てことは、あやめからも僕の記憶は消されているんじゃないのか?」
「……? うん、そうだね。わたしも会った時のことは、覚えてないよ」
「なら、どうしてあやめは今、僕のことを知っているんだ?」
互いの記憶が消されているのなら、あやめが僕を認知しているのは矛盾する。
何か説明をしてくれるのかと思ったが、彼女は言葉の代わりにワンピースのポケットから、小さく折り畳まれた古びた紙を取り出した。それを読めとばかりに、僕へと差し出す。
「これは?」
「記憶が消される前に、わたしがあなたに書いた……手紙」
差し出されたそれを受け取り、破れないようにゆっくりと開く。
「おい、読めない」
「あ……ごめんね」
まさかの妖怪語だった。
あやめが手紙に細い指を添えると、手紙が淡い光を放った。
「もう一度……読んでみて」
「おおっ、超常現象!」
再度受け取り、手紙に視線を落とすと、今度は何故か謎の字の羅列を読むことができた。
すごい、マジで妖怪だったのかあやめ――って、感心してる場合じゃなかった。
僕は居住まいを正して、手紙に目を通した。
ゆずきへ。
このまえは、こくはくしてくれてありがとう。
とってもうれしかったよ。
でもね、わたしはもうすぐゆずきのことをわすれちゃうんだって。
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