第一章 あやめの嫁入り

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「あのさ。さっき、わたしたち──って言ったよな? てことは、あやめからも僕の記憶は消されているんじゃないのか?」 「……? うん、そうだね。わたしも会った時のことは、覚えてないよ」 「なら、どうしてあやめは今、僕のことを知っているんだ?」  互いの記憶が消されているのなら、あやめが僕を認知しているのは矛盾する。  何か説明をしてくれるのかと思ったが、彼女は言葉の代わりにワンピースのポケットから、小さく折り畳まれた古びた紙を取り出した。それを読めとばかりに、僕へと差し出す。 「これは?」 「記憶が消される前に、わたしがあなたに書いた……手紙」  差し出されたそれを受け取り、破れないようにゆっくりと開く。 「おい、読めない」 「あ……ごめんね」  まさかの妖怪語だった。  あやめが手紙に細い指を添えると、手紙が淡い光を放った。 「もう一度……読んでみて」 「おおっ、超常現象!」  再度受け取り、手紙に視線を落とすと、今度は何故か謎の字の羅列を読むことができた。  すごい、マジで妖怪だったのかあやめ――って、感心してる場合じゃなかった。  僕は居住まいを正して、手紙に目を通した。  ゆずきへ。  このまえは、こくはくしてくれてありがとう。  とってもうれしかったよ。  でもね、わたしはもうすぐゆずきのことをわすれちゃうんだって。     
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