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僕は鼻をすすり、手紙を返した。
「あやめも読んだんだよな、これ」
「……うん。読んだよ」
手紙を受け取り、彼女はそっと胸を押さえた。
「ここがね……きゅうって痛くなったの」
「そう……だよな」
幼い頃のあやめを想うと、張り裂けそうなほど胸が痛んだ。
っていうか、いくらルールだからって娘の記憶を消すか、普通。なんだか、腹が立ってきた。
憤る僕をよそに、あやめは穏やかな表情を浮かべた。
「……でもね、もう痛くないよ」
「え?」
「手紙に書いてあった通りだなって思ったの。忘れたなら……また好きになればいいんだって。だからね、会いに来たんだよ。小さい頃のわたしが好きになった……あなたに。もう一度、あなたを……好きになるために」
そう言った彼女の表情に、憂いや、悲しみは一切なかった。
代わりに、陽だまりみたいな、優しい、柔らかい笑みが浮かぶ。
「そっか」
その笑顔に、あやめを見た時に感じたざわめきの正体を知った。
嗚呼、間違いない。僕はこの笑顔を、この感情を知っている。
本当に僕は、七年前もこの子に恋をしていたんだ。
「ねえ、ゆずき……。またわたしに、優しくしてくれる?」
向けられる笑顔に、つられて僕も笑った。
「ああ。もちろんだとも」
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