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『カコッ、カコッ、カコッ、カコッ…』
僕は錆びれた小さな時計。とある家に居候してはや15年。君が生まれたその日に取り付けられた僕は、少し音程のずれた響きをお腹の振り子から1、2、3、4…変わらず、変わらず───そして君がつかつか歩んできた道のペースメーカーとして、これまでも、これからも、生きていくのだ。
君は今日も歩く。まるで僕の振り子と共振するかのような歩みは、ただ佇む僕にとって幻の探検をもたらしてくれる。歩くことで、僕らは共に生きていけるのだ。
…あれ?
なんで僕は時計なのに君の歩む先を見られるのだろう?
僕は見る。君が歩むその先を。そう、僕は時計であって時計でない。
───じゃあ、何だろう?
おっと、君が歩むその先は、再びの宵闇か───
知らせなきゃ
『ゴォーン、ゴォーン、ゴォーン…』
荘厳な鐘の音が僕と君に鳴り響いた。
僕は喋ることができる。
君と会話することもできる。
昨日なんか、君とレストランで食事をした。
一昨日は君とラーメンを食べた。
もちろん、君の友人とも友達だ。
僕は時計であって時計でない。人間であって人間でない。
────僕は、何?
『そっちに行っちゃだめだ』
『こっちに来るんだ』
『そう、こっちに──』
僕は時計であって時計でない。
年頃の君の友人として、だが、操り人形として僕は今日君を支配する。
さあ、たった今『君』を倒した。
────僕は、何?
僕は、物心ついた頃には君を家族だと認識している。ただ、僕は囚われの身なのだ。
それだけは、解る。
でも、分からないんだ。
コンクリートが打ちっぱなしにされた壁。質素な家具。全色を闇で統一されたそれらと共に、ただ一人だけ時計らしい茶色を全身に纏い、ただただ「カコッ」と時を刻む。
でも、時計でない。
────僕は、時計?
長年の懐疑、解決されるときは来るのかしら…?
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