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口の中で丹念に転がし、舌で突き回し、そっと噛む。
「卵と牛乳の匂いがすごい! ホント柔らかくてすごい!」
パンケーキの食感がごとく脳がふわんふわんになってしまったように残念な語彙の彼は、一口食べるごとにご自慢の自撮り棒を使ってパシャーパシャーとやっている。どうでもいいことだが、自撮り棒はセルフタイマーでしか撮影できないと思っていたが、彼のように無線リモコン式でシャッターを押す種類もあるのだと知った。ブンブンと自撮り棒を振り回して撮りまくる彼に、彼女は恥ずかしそうなにやけ顔だ。
「もう。目立っちゃうからそのくらいにしてよ、お兄ちゃん」
カチャーン…………
私の持っていたフォークがテーブルに落ちて大きな音を立てた。また彼らの視線を浴びてしまったが、それどころではなかった。
お兄ちゃん。今、お兄ちゃんと言ったのか。聞き間違いではないだろう、確かに彼女は向かいの彼に向かって「お兄ちゃん」と言ったのだ。兄妹だったのか、あんなにイチャついていながら……!
あまりの衝撃に味覚が鈍ったか、和牛100%プレミアムハンバーグステーキの味はぼやけてしまって、よく分からないままに鉄板は空になった。
彼らとほぼ同時に店を出た。
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