ホ猥トクリスマス、肉欲に溺れる。

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 二人が持ったメニューは期間限定のものだ。和牛100%(略)の注文を家で何度もシミュレーションしてきた私にとっては不要だったので、裏面があるとは知らなかった。店員が「クリスマスマウンテンハニーパンケーキですね」と復唱したのを聞き、彼女がそれを注文したと分かった。  クリスマスマウンテンハニーパンケーキ。流行りのパンケーキを山盛りにして、頭にクリスマスをくっつけただけの、商品開発部のやる気がまるで感じられないメニューだ。マウンテンなパンケーキなのだから、二人で仲良く一つの山をつっつきながら食べるのだろう。チクショウ。  愛しの彼女を待つ間、原稿を進めることにした。官能小説の公募として有名なフランス書院文庫官能大賞。次回の締め切りは五月末、受賞すれば賞金がもらえるし、作品がフランス書院から刊行される。応募総数は千通を超え、もちろん私は受賞歴無しだ。  日常で見かける人々の所作や、なんでもないような出来事でも小説のネタにしようと観察してしまうのは、小説を書く者の(さが)だ。例えばそう、隣に座っているカップルと思しき若い男女、こういうのがネタになる。ペンを進めながら、二人の様子を観察する。二人はお互いだけに分かる秘密をささやき合うように、二言三言話しては幸せそうにクツクツと笑い合っている。チクショウ。
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