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一生の不覚
昼休み。報告書に目を通していると、デスクの上に影ができた。
「木村課長……」
顔を上げると、総務課の吉岡真由美が目の前に立っている。吉岡真由美は俺が去年までいた総務課の時の部下だ。
「今晩何か予定が入っていますか?」
「予定? いや、特には無いが」
不意をつかれ、少々慌てて答えた。
「相談したい事があるのですが、お時間をとっていただけませんか?」
「うん、いいよ。向かいの店でコーヒーでも飲みながら聞こうか」
「あ、私はお酒の方がいいです。ここに七時にお願いします」
怒っているような表情でメモを寄こすと、くるりと背を向け歩いて行った。
いつも見惚れる。均整のとれた体からスラリとのびた長い脚が眩しい。
高層ホテルの四十三階。レインボーラウンジから見下ろす都会の夜景は美しい。ありふれた表現だが、宝石をちりばめたように輝いている。
だが、離れて眺めるのは美しいが、眼下のオフィスや飲食店では、多くの人々が帰りたい気持ちを抑え残業に追われ、また仕事を終えた人たちは異臭と喧騒の中で上司や家族の愚痴を言い合っているのだ。
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