一生の不覚

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 俺は真由美の横顔を見つめる。長いまつ毛が二度上下した。 「私ね」  真由美は、今度は俺を見て話し始めた。「企画開発課の山本さんから、つき合ってくれ、と言われているの」  ――山本。  意外な名前に苦い思いが浮かんだ。  山本は若手のホープと嘱望されている。俺より五年遅れの入社だが、早くも課長級である総括主幹職になっている。もっとも、父親が専務で、伯父が社長ということもあるだろう。この会社は、先々代の社長が起こし、今は製菓会社としては中堅企業に成長している。創業者の同族というだけでは、簡単に出世できるとは思わないが、直属の上司の査定は甘くなっているに違いない。おそらく四、五年後には俺を追い越すだろう。  七年前、俺は同じ職場の通子と結婚した。通子はつつましやかでおとなしい女性だ。俺は清楚で美しい通子をすぐにでも辞めさせて結婚したかった。だが、通子から、せめてもう一年は仕事をしたい、と請われたので待ってのことだった。  ――あの時。風邪気味だったので止せばよかったのだろうか。     
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