一生の不覚

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 結婚して二年経った頃、大学時代の友人達と、会社近くの居酒屋で飲んだときだった。俺はやはり調子がよくなくて、居酒屋のトイレを使用していた。個室での用を終えたとき、外から話し声が聞こえてきた。 「……俺もいろいろな女とつき合ったけれど、見た目だけでは判らないぞ。ほら、木村さんと結婚した奥村通子を知っているか?」 「あぁ、おとなしそうな女性だよな」 「それがね、結婚が決まってからも、何度か俺と関係を持っていたんだぜ……」  話はまだ続いたが、あとは洗浄の水音で聞こえなかった。  俺は、妻の通子ことではないだろう、と思いたかった。だが、名字もあっている。しかも、声は聞き覚えがある。俺の会社の誰かだ。俺は二人がトイレから出ていった後しばらくしてから、仲間の席に戻った。時間が長かったからか、友人の一人が「具合が悪いのか」と聞いてきた。俺は「風邪のせいで悪酔いしたようだ」と答え、先に店を抜けることにした。出口へ歩いていくと、途中のテーブルに山本が居た。彼の同僚たちと一緒だ。山本は一瞬驚いたようだが、「あ、木村さん」と、声をかけてきた。俺も挨拶を返した。  ――さっきの声は山本か。  歩きながら確信していた。  家に帰っても俺は通子を問い詰めなかった。体調が悪かっただけではない。怖かったのだ。  機会を逸したまま時を過ごした。だが、鬱々とした気持ちは失せてはいなかった。     
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