一生の不覚

8/11
前へ
/11ページ
次へ
 俺は真由美の口の動きを見ている。吸いつきたい気持ちを抑えるのに苦労するほど魅力的だ。 「課長? 恋と結婚を割り切る女をどう思う?」  うーん、どうなんだろう。ちらりと通子のことを考えた。  真由美は返事を待たずに続ける。 「私の最後の恋は課長なの」  真由美の視線は、もう俺から離れない。  もはや明確だ。躊躇することはない。俺も真由美を見る。 「君の想いを叶えてあげることが、僕には、できるよ」  意外とすんなりこの言葉が出てきた。  真由美の表情はほとんど変わらなかったが、微かに目が頷いたように感じた。俺はこの場で真由美を抱きたい衝動に駆られた。それを、かろうじてこらえた。 「ちょっと電話をしてくる」  離れがたい気持ちを抑えて俺は言った。店内は携帯電話が禁止されている。俺は店のエントランスまで動いた。  電話を終えて戻ると真由美はスコッチとジントニックを追加オーダーしていた。 「ごめん」俺は席にかけながら言った。「どこに電話してきたと思う?」。  ニコリと笑ったつもりだが、自分の質問で俺は興奮してきた。 「え? う~ん」  真由美は首をかしげながら腕を組んだ。腕が胸のふくらみが押し上げる。  俺は、視界の隅にそれを捉えたが、視線を移すのは耐えた。 「奥さんかな? 今晩遅くなる、って電話したのかしら」     
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加