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真由美の目はその答えを期待していた。
「いや……、違う。僕は遅くなるときでも、いちいち電話はしないんだ」
スコッチとジントニックが運ばれてきた。俺はグラスが置かれるのを待つあいだ、口の中の唾を飲み込んだ。
「電話は、このホテルへかけたんだ。ツインルームを予約してきたよ」
真由美は驚いた様子は見せなかった。二、三秒間――俺には長く感じられたが――黙った後、言った。
「私も泊りたいな」。かすれ声だった。
そして、ジントニックに手を伸ばし、それを口に含むあいだも俺の顔を見たままだった。俺も目をそらさない。二人の視線がからまる。俺は、小さなエクスタシーを感じた。
そのエクスタシーには性的なものの他に、加虐的なものもあることを覚えた。
――俺は山本に、同じ嘲笑を返してやれる。
俺のエクスタシーが伝わったのか真由美の目は妖しく光ってきた。
――山本が結婚する女を、俺は抱くんだ。
また通子のことが思い浮かんだ。罪悪感はない。
会計をするため、ウェイターを呼んでチェックをしてもらう。思いのほか高かった。顔には出さずクレジットカードを渡した。しばらくしてウェイターが戻ってきた。
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