第エヌプラス一夜

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 唐突だった。その未知の病気が発症したのは。  大学構内でいきなり倒れ、病院に運ばれても暫く意識を取り戻さず、夜になって漸く目覚めたかと思うと照明がつけられた瞬間に再度意識を失った。  仮名は光眠(こうみん)病。光を浴びると意識を失ってしまう病気だ。朝昼は行動不可、照明も電子機器もまともに使えない(日中に唐突に眠くなるナルコレプシーとは別物らしい)。活動できる時間帯は夜中に限られているので、帰省した今は常に家族を起こさぬよう気を使う必要がある。やることは専ら豆電下での読書だ。卒論を仕上げられるかもわからない。退学する可能性だってある。数字アレルギーになった上にこんな訳のわからない病気を患うなんざ、不幸ここに極まれりだ。死ぬような病気じゃないことは、果たして幸なのか不幸なのか。  四六時中暗い部屋で過ごせば問題ないと思う人もいるだろう。だが日光が必要であるのは普通の人と変わらない。ビタミンDを生成しなければ衰弱してしまう。  光眠病の症例は一つもないらしく、無論治療法など確立されていない。通院はしているが、毎度毎度通常と変わらぬ健康診断が為される。薄暗い中でする検査は、実験に付き合わされているようであまり気乗りしない。  とにもかくにも、今の俺にはできることが少なすぎる。姉貴のおやつを貪っていたのは、ちょっとした暇潰しでもあったのだ。
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