第二夜

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 しめしめ、夕飯のときも何も言われなかった。  しかし、姉貴のマメさは健在なようだ。起床、朝飯、出勤、帰宅、夕飯、入浴、就寝、エトセトラ。これら全てを、必ず同じ時刻で行うらしい。さすがは女版イマヌエル・カントと(俺に)呼ばれた御仁である。きっと研究所でもルーティンがあるのだろう。  甘いものを摂取する時間も決めているようだ。朝食のあと。その為に、勤務帰りは必ずコンビニスイーツを買う。  その情報を俺に漏らしたのは失敗だったな。  今日は月が明るい。雲に隠れている間にちゃちゃちゃっと済ませよう。  昨日でもう感覚は掴めた。  ほら、取っ手。  さあさあご開帳。 「お」  シュークリーム。しかもプリン風味。  眠くなる前に食っちまおう。  冷蔵庫に腰をかける。こんな大きさだったか、これ。  四年。俺が姉貴の部屋を拒み続けた年数だ。まあその内三年は大学生活が忙しく、お盆と正月以外帰省していなかったのだが。  特に感慨に耽るでもなく、包装を無造作に破く。そして大きく口を開け、思いっきりかぶりついた。カスタードクリームとカラメルソースが口いっぱいに広がる。  ゆっくりと味わいながら食べていると、幸福な時間に水を差すものが。  しまった。月が出てしまったか。  まずい。まずいマズイマズイ。  目を瞑ったが、遅かった。月光に眠けを誘われた挙げ句、俺の何より嫌いなものがはっきりと目に写ってしまった。目眩がする。肌が粟立つ。しかも、震えてやがる。やはりこの部屋は俺には応える。前より数式増えてるし。  このままじゃここで落ちちまう。撤収だ。  俺は部屋を出た。ちゃっかり包装をゴミ箱に捨て、残りを手に持ったまま。
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