第三夜

2/2

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「最近ボケてんのかな」  夕飯時の姉貴の発言を思い出し、笑いがこみ上げる。計画通りだ。姉貴は、自分は寝ている間におやつを食べているらしい、と母に話していた。  そりゃそうだ。両親は子どもの物をとるような人間ではないし、一番疑うべき俺も姉貴の部屋には入れないと認識されているので、必然的に容疑者からは除外される。  それに、姉貴は大分疲れているようだ。疲弊しきって俺と言葉も交わそうとしない。いや、前から口数は少なかったが。 「あんた見てると元気出るわ」  今日、姉貴が俺に言った言葉は以上である。  リビングの薄暗い照明の下で、姉貴はそう言った。呆れているようにも見えたし、哀れんでいるようにも見えた。  不治の病に罹患した俺と比べれば自分の疲れなど大したものではない、とでも思い込んで、自分を鼓舞しているのだろうか。それはそれで気持ちいいものではない。  姉貴は昔から何でもできたから、俺を下に見ているのは間違いないだろう。まあ、仕方ないといえば仕方ない。  今日はマカロンだった。  サクサクと音を立てて咀嚼しながら、ふと思う。  毎日違う食べ物が入っているのは姉貴らしくないな。悩む手間を省きたいからといっていつも同じ服装をしている姉貴ならば、コンビニスイーツも同じ物しか買わなさそうなものだが。  姉貴もスイーツ選びには悩むのかもしれない。ということは俺が今いただいているコレは、手間嫌いな姉貴がわざわざ手間をかけて選んだもの……。  湧いてくる感情を誤魔化すように、残りを口の中に押し込んで退散した。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加