第エヌ夜

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 休学して帰省してから、三週間が経った。ここ数日、姉貴とは会話していない。俺が目覚めたときには既に、姉貴は部屋に籠ってしまうからだ。明かりがついている部屋には入れないため、俺は夕飯を一人で掻きこまねばならない。  ひょっとすると、姉貴は寝る時間を変えたのだろうか。無駄な思考をすることを厭うあの効率の鬼が? 一番仕事が捗る睡眠時間を熟知しているあのイマヌエル・カントが? 余程疲れているに違いない。  それでも俺はおやつを食う。  今日はみたらし団子だ。和菓子とはわかっていらっしゃる。俺のために用意されたようなものだと思っていいだろう。  しかし、困ったな。三本入りだ。姉貴は何回に分けて食べるつもりなのだろう。まさか四個刺さっている串三本分の計十二個を一気にたいらげることはあるまい。  いや、そんな深く考える必要はない。姉貴は自分がボケて食べていると思っている。なら全部食っちまえばいいんだ。  まずは一本目。一個を歯で挟み、串から引き抜く。もっちゃもっちゃと咀嚼。そうそう、この味。  二個目、三個目、四個目。次々に口に入れていく。あっと言う間に串が丸裸。ゴミ箱の上でつまみ、落とす。こんっと小気味のいい音が鳴った。  さて、二本目といきますか。  律儀に閉めたプラスチック容器に手をかけようとしたが、あまり気乗りしない。腹が満たされたわけでもないのに、食欲が消え失せてしまったようだ。  俺は容器を冷蔵庫に戻して、部屋を出た。  断じて、いつもより大きい寝息が気になったわけではない。
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