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顔を出したのは、若い男だった。
黒いバンダナにエプロン姿だ。この屋台の人だろうか。
屋台なんて年配のおじさんがやっているイメージがあったので、少し意外に思った。
青年は優奈を見ると「こんばんは」と言って微笑んだ。
あまりに自然に言われたので、思わず「こんばんは」と挨拶を返してしまう。
「今夜は月が明るくって、いい夜ですね。散歩するには、うってつけです」
「あ……そ、そうです、ね……」
こんな時間にひとりで出歩いている優奈を咎めることもなく、そんなことを言う。
戸惑う優奈に、青年は
「そんなところにいないで、どうぞこちらへ」
と言って手招きをした。
迷ったが、優奈は屋台の灯りに引き寄せられるように近づいた。
優奈は古い長椅子にそろそろと腰掛けた。椅子だけではなく、屋台自体も古い感じだった。
「いらっしゃいませ」
近くで見ると、青年が整った顔立ちをしていることに気づく。
色白で細身で、この古ぼけた屋台にはあまり似つかわしくない気がした。
――それにしても、
きょろきょろと見回しても、どこにもメニューらしきものがない。
それでも、置いてあるものを観察するとなんとなく察しはつく。
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