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真夜中の出来事
ふと、目が覚めた。何かが聞こえた気がして。
海斗は半身を起して、辺りを見渡した。
そこは母の実家の、二階の一室。目が慣れているとは言え、暗い暗い部屋の中。隣には今年高校生になったばかりの、一つ年下の弟の姿がある。一日だけの里帰り。両親は一階にある座敷に、そして自分と弟だけが、昔母の使っていたこの部屋に泊まることになったのだった。
周囲には弟以外に人影はなく、その弟もまたぐっすりと眠っている。
夢だったのだろうと、海斗はもう一度敷布団の上に横になり、目を閉じた。
「…………!」
また、聞こえた。今度は確かに、この耳で。
あれは何だろうか。どこか物悲しい気分にさせる、女性の声。
いや、声というよりは。
「……歌だ」
滑らかな旋律と共に部屋を泳ぎ、海斗の耳の奥へと進む。
美しい歌だ。それでいて、悲しい歌だ。
……一体、どこから……。
もう一度半身を起して、もう一度辺りを見渡す。
暗い暗いその部屋にはやはり、自分と弟以外、誰もいない。
「……外?」
耳を澄ませて歌を辿れば、どうやらそれは網戸になっていた窓の向こう側。細い月がおぼろげに輝く、庭の向こうのその向こう。
……行ってみよう、かな。
美しいその歌も、悲しいその声も。なぜだか無性に、心に響いて。
ぐっすりと眠る弟の横顔に視線をやった後、海斗はそろりと、布団から抜け出した。
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