2人が本棚に入れています
本棚に追加
涙色の世界
胸の奥を握られたような、そんな気がした。
「…………」
聞こえてくるのは、美しい歌だった。それはそれは、美しい歌だった。
……あれは、一体。
小さな小さな入り江の中、真ん中辺りにある岩の上。
彼女はそこで、歌っていた。
……なんて。
なんて、悲しい声で。
髪の長いその少女は、薄く白いワンピースを身に纏い、岩の上で一人歌っていた。空を見上げて、歌っていた。
「……綺麗、だ」
きらきら、きらきら、輝く色。月に照らされる、涙の色。
それはまるで虹のように、様々な色に輝いて。
ぽとりぽとりと、海に落ちていく。
綺麗。綺麗だ。
とても、綺麗だ。
悲しい声で歌うのに。悲しい表情で泣いているのに。
その姿はただ美しくて。
喉の奥を熱く焦がして。
「……もう少し、近くで」
その姿を見れたならば。
思えば足が、勝手に進む。
一歩、一歩。また、一歩。
パキリ。
音が一つ、高らかに響いた。
最初のコメントを投稿しよう!