涙色の世界

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涙色の世界

 胸の奥を握られたような、そんな気がした。 「…………」  聞こえてくるのは、美しい歌だった。それはそれは、美しい歌だった。  ……あれは、一体。  小さな小さな入り江の中、真ん中辺りにある岩の上。  彼女はそこで、歌っていた。  ……なんて。  なんて、悲しい声で。  髪の長いその少女は、薄く白いワンピースを身に纏い、岩の上で一人歌っていた。空を見上げて、歌っていた。 「……綺麗、だ」  きらきら、きらきら、輝く色。月に照らされる、涙の色。  それはまるで虹のように、様々な色に輝いて。  ぽとりぽとりと、海に落ちていく。  綺麗。綺麗だ。  とても、綺麗だ。  悲しい声で歌うのに。悲しい表情で泣いているのに。  その姿はただ美しくて。  喉の奥を熱く焦がして。 「……もう少し、近くで」  その姿を見れたならば。   思えば足が、勝手に進む。  一歩、一歩。また、一歩。  パキリ。  音が一つ、高らかに響いた。
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