落し物No.1についての考察

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しばらくして、廊下を走る音が近づいてきた。 「水木!あった!水木の言った通りだった!」 「おーおー、よかったな。見つかって。」 「うん!ありがとう!助かったー」 ほら、大切な物は見つかる。 少し頭を使えばいいし、俺は見つけるのが得意だ。 「帰るぞ。暑い。」 「うん、途中まで一緒に行こ。」 大事そうに筆箱にしまって、俺の隣を歩く。 「今度、なんか奢る。」 「アイスで。」 「りょうかいした。」 外に出ると、日差しよりも空気の暑さに息がつまる。結構長くいたんだな。 自転車を漕げば少しはマシだろうが、志村は徒歩通学だ。 「今日は…お姉ちゃんの祥月命日なの。」 「…。」 「さっきのシャーペンは、お姉ちゃんが私にくれた物。だから、今日じゃないとダメだった。」 「…そうか。」 「私は…5年経っても、どこかで追いかけてる。優しくて、綺麗だったお姉ちゃんを。」 不意に、涼しい風が肌を滑った。 「お姉ちゃんになりたいわけでも、なんでもないんだけどね。」 「…そうか…。」 なんて気が利かない返事だろう。 俺は、いつもそうだ。 俺には大事なものが、わからない。 好きなものが、わからない。 けれど、 今ここにいない人を想い続けることが、どれだけ尊いものかは知っている。 志村を近くまで送って、俺の長い1日が終わった。
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