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「たぶん、写真集を持ってるのは美里ちゃんだ。」
「え?どうして…」
「2人にとって、写真集はどんな存在だった?」
「どんな…美里は海が好きで、いつか行ってみたいって…だから、俺は連れてってやるって…」
「つまり、希望だ。」
美里ちゃんが生きる希望。
「希望…」
「それと、山口を縛る綱。」
「俺を縛る綱?」
「お前は、美里ちゃんに約束したんだろ?連れて行ってやるって。でも、」
でも、つまりそれは。
「治ったら、の話。そういう約束だ。美里ちゃんは、思い出したんだ。これは憶測だし、俺には気持ちはわからない。おそらく山口に会いに来たとき、思い出したんだ。だから、写真集を持ち去った。」
「持ち去ったって…、机の中から?そんなことする子じゃ…」
「実際は、お前が『落とした』んだ。」
「は?」
「美里ちゃんと、写真集を一緒に見なかったか?」
「見た。見たいって言うから。」
「美里ちゃんは、お前が落とさなくても取っていく気だったと思う。でも、その日お前は動揺してた。だから、大事な物さえも仕舞うことができなかった。」
「どういうことだよ。」
「手術の話を聞いて、動揺したんだ。人はルーティンがあっても、何か違うことがあったり、ルーティンの1つが崩されるだけで、急にできなくなることがある。それが起こったとすれば、仕舞い忘れることもあるだろ。」
「なるほどな…」
「そして、そのまま机に置いた。山口が何かの用事で部屋を出たとき、たまたま美里ちゃんの前に落ちた。これ幸いと、拾って持ち去った。」
「落ちたって、何でわかるんだよ。」
「取ると、拾うは違うから。」
「ええ?」
「美里ちゃんは、そういうことする子じゃないんだろ?『取る』だと罪悪感が生まれる。『拾う』は罪悪感が薄れる。」
「んー…」
「ま、わかんねぇけど。とにかく、美里ちゃんに会いに行けば?」
「そうだな、ありがとう!」
「うん、よく話してこい。」
「わかってるよ!」
俺は鞄を持って、山口の家を出た。
山口は、その後すぐ病院に向かったらしい。
上手くいくといいな。
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