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山口side
「山口くん?!」
「おひさしぶりです、水木のお母さん。」
「どうしたの?!」
「途中で倒れちゃって、中いいですか?」
「ごめんね!お願い!」
「お邪魔します」
意外と軽い背中のやつを、ベッドに降ろす。
「ごめんねぇ。貧血だと思うわ」
「よかったです。」
「この時期はねぇ…」
「何かあったんですか?」
「あぁ、そっか、そうよね…」
お母さんの顔が曇った。
「あの、涼くんの記憶と何か関係があるんですか?」
「えぇ、少しね。」
「聞かせてください!」
「…」
「友だちとして、お願いします!」
「…わかったわ。でも、涼には言わないで。」
「え?」
「また、苦しんじゃうかもしれないでしょ?」
悲しくて、儚くて、水木によく似た顔。
水木も泣きそうな時は、こんな顔をするのかと、何となく思った。
「あの子が5歳のときだったわ。幼馴染の子が、殺されたの。」
殺された…?
「涼と遊んだ帰り。不審者に襲われた。その日、涼とは帰りを別にしたらしいの。哲也くんは、あ、その子の名前は哲也くんって言うのね。涼より少し早く帰った哲也くんは、不審者に…。涼は、ショックが大きかったのね…。ずっと泣きっぱなしだった。」
そりゃそうだ…。
「でもある日、ケロッとした顔で起きてきたの。そして言ったわ。『お母さん、僕、わかんない。』って。心配になって、何を?って聞いたら、『この子、誰?』って哲也くんの写真を指差したの。涼は…、その日の記憶だけじゃなくて、哲也くんの存在も忘れてしまったの…。」
存在さえも、忘れてしまった。
なんて、
「でも、安心した部分もあるの…。小さいあの子が、無意識に負ってしまった責任を忘れられるならって…。」
なんて、悲しいんだ。
「お願い、山口くん。忘れたままでいさせてあげて欲しいの。」
俺は、
俺は、どうするべきだろう。
苦しむくらいなら、
心を伏せてしまうくらいなら、
忘れていた方が…。
でも、亡くなった哲也くんの気持ちは…。
「…わかりました。」
わからないなら、俺は、俺の意思で決断する。
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