落し物NO.3についての考察

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山口side 「山口くん?!」 「おひさしぶりです、水木のお母さん。」 「どうしたの?!」 「途中で倒れちゃって、中いいですか?」 「ごめんね!お願い!」 「お邪魔します」 意外と軽い背中のやつを、ベッドに降ろす。 「ごめんねぇ。貧血だと思うわ」 「よかったです。」 「この時期はねぇ…」 「何かあったんですか?」 「あぁ、そっか、そうよね…」 お母さんの顔が曇った。 「あの、涼くんの記憶と何か関係があるんですか?」 「えぇ、少しね。」 「聞かせてください!」 「…」 「友だちとして、お願いします!」 「…わかったわ。でも、涼には言わないで。」 「え?」 「また、苦しんじゃうかもしれないでしょ?」 悲しくて、儚くて、水木によく似た顔。 水木も泣きそうな時は、こんな顔をするのかと、何となく思った。 「あの子が5歳のときだったわ。幼馴染の子が、殺されたの。」 殺された…? 「涼と遊んだ帰り。不審者に襲われた。その日、涼とは帰りを別にしたらしいの。哲也くんは、あ、その子の名前は哲也くんって言うのね。涼より少し早く帰った哲也くんは、不審者に…。涼は、ショックが大きかったのね…。ずっと泣きっぱなしだった。」 そりゃそうだ…。 「でもある日、ケロッとした顔で起きてきたの。そして言ったわ。『お母さん、僕、わかんない。』って。心配になって、何を?って聞いたら、『この子、誰?』って哲也くんの写真を指差したの。涼は…、その日の記憶だけじゃなくて、哲也くんの存在も忘れてしまったの…。」 存在さえも、忘れてしまった。 なんて、 「でも、安心した部分もあるの…。小さいあの子が、無意識に負ってしまった責任を忘れられるならって…。」 なんて、悲しいんだ。 「お願い、山口くん。忘れたままでいさせてあげて欲しいの。」 俺は、 俺は、どうするべきだろう。 苦しむくらいなら、 心を伏せてしまうくらいなら、 忘れていた方が…。 でも、亡くなった哲也くんの気持ちは…。 「…わかりました。」 わからないなら、俺は、俺の意思で決断する。
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