魅惑的差し入れ作戦

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子供のスネをかじりあげている母に大金があるとバレると、ギャンブルにつぎ込んで貧乏生活に逆戻りするのは目に見えている。 そんなどうしようもない親を反面教師にしている娘二人は、いつクビになるとも限らない危険な職場で、今後が困らないよう生活基準を変えることなくせっせと働いている。 命の危険はあるがその分好待遇なので、今のうちに出来る限り貯めておきたいのだ。 夏場の手伝いは過酷さこの上ないが、今年はじゃがいもが順調に育っていた。 中が黄色でもっちりとしている品種なので、同じチームメイトや社長に少し売ったりもしている。 普段お世話になっているという名目で、くれるという優しさはないのかとリーダーからはクレームが出た。 しかし、休みもほぼ返上で作業する見返りに値段をつけるのは商売根性というか、貧乏人の生活の知恵でもある。 母の趣味というより気晴らしの畑仕事も、少しは家計の足しになり、今年は買う野菜が多少減っている。 そして休みの日に疲れきっていても、職場のコーヒーやパンを食し、ちゃっかり体力を回復させ万全の体制で仕事に臨んでいる。 いつもお世話になっている受付の木村さんには感謝しているが、抜け目ない貧乏気質がそうさせているのかもしれない。 でもやはり休んだ気にならないし、何かが足りないと仕事終わりのコーヒーを啜り、妹と顔を見合わせた時だった。 「ねえ?二人は今年スイカ食べた?」 「そういえば食べてませんね」 「くそ暑い中草刈りしても、冷凍バナナで耐えてたんで」 木村さんの何気ない質問で、ようやく足りない何かに近づけた気がした。 「姉さん、明日からの休みはスイカ買いにいこう!安くていいから季節のフルーツくらい食べよ」 「だね…もう秋だけどまだあるかもしれないし」 既にスーパーで並んでいたのは梨だった気もするが、休みに出かける事もなく草刈りや畑の手伝い漬けだったので、ささやかなご褒美だ。 「なら丁度良かった!これ差し入れなんだけど、凄く甘いから持って帰ってもらおうと思って」 木村さんが机に置いてくれたのは、高価な器でも入ってそうな木箱だった。 見た目だけで、お高いんでしょと言いたくなるようなビジュアルに若干腰が引けてくる。
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