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「瑠里先に帰ってて、ちょっとトレーニングしたい事あるから」
「うむ感心な事だ、せいぜい頑張るが良い」
予想通り本人は練習しないと意思表示が返ってきたので、後は木村さんにどう持ち掛けるか考えていた。
「あ、コンビニ寄るけど何か要るもんある?」
「えっ、ああ、きな粉ポテチとイナリとキセロに何か買ってあげたら」
「そうだね、ついでにパックのショートケーキを買っておこう」
瑠里が部屋を出てからもコーヒーを飲んでいると、いい案が浮かび木村さんに挑戦する事にした。
「あの木村さん、ちょっとお願いがあるんですけど……」
作戦は今夜エピナルさんと、食事をしながら明日の芝居後の出待ち場所を相談すると約束した。
行きたいけど、他の人に知られると面倒だから内緒にしておいて欲しいという内容だ。
「へぇ良かったね、確かにイケメン役者を観る為の相談なんて社長達に知られると、邪魔されるかもしれないもんね」
男性が絡んでくると本当にいつも妨害又は様子を見にくるし、他にも面倒くさい人物が数名いるので説得力もある。
コーヒーのおかけで平常心を取り戻せたので、違和感なく芝居も出来たし木村さんは着替えも準備してくれたので、ロッカーで着替えてパネル部屋に向かう。
「瑠里はいいの?」
「ええ、チケットは一枚ですし若いイケメンには興味を示さなかったので」
芝居というより本当の事なので、質問があっても言葉に詰まる事もなく、社長達や妹の普段の行動に溜め息が出そうだ。
「話が盛りがって遅くなりそうだったら泊ってもいいわよ?会社のカード使って」
「はい、有難うございます!行って来ます」
扉を潜って蝶の世界に入り人気のいない場所を探して腰を下ろすと、我慢していた涙が溢れ出し、拭っても拭っても止まりそうにない。
「ううっ……瑠里ぃ……イナリィ……」
パン工場の面接から始まり、現在の仕事に就いて高月給を励みにそこそこ頑張ってきた。
命の危険は何度もあったし、ギリギリの所でなんとか凌いできたが今回ばかりは本気で無理そうだ。
最後にきな粉ポテチを食べながら時代劇をダラダラ観る事も出来ず、イナリの顔を見れないまま死ぬのも未練が残る。
彼も出来ないままだし、せっかく稼ぐ事が出来るようになったのに、ちょっとお高いご褒美も買ってない。
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