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ソファもあるしトイレもすぐに行けるし、相手は心に話しかけてくるような奴なので勝ち目もないし、抵抗の方法も分からない。
恐らくガーニョみたいに自分の空間があり……というか、妖怪エリアを行き来する者はそういう戦い方なのかもしれない。
でもヘルプにも入った事のない新人だし、一から勉強している時間もない。
どうせあのホテルが待ち合わせ場所で、ここからダッシュすれば三十秒もかからないし休憩も兼ねて入ってみる事にした。
大きさは私達が泊まっていたホテルと似ていて、ロビーも広々して豪華だし一階にカフェやお店も結構揃っている。
普段なら緊張してしまうが、もう腹を括ってる部分もあるので堂々とトイレを探し、高そうなカフェのどれに入ろうか吟味していた。
「よし、アフォガードにしよう」
以前に任務の時に飲んだ事があるが、アイスクリームにコーヒーを注がれるタイプで二度美味しいし、見た目も綺麗だった記憶がある。
缶コーヒーよりもかなり高額だし、普段お茶をするには贅沢品なので機会があれば仕事の時に注文しようと思っていた。
中に入るとウエイターに窓際を案内され、注文を済ませると薄っすらと目を閉じて頭の中を整理していた。
こんな時に思い出すのは祖父母の事で、優しいお爺ちゃんの言葉が浮かびゆっくりと瞼を開けた。
「そんな顔せんでも困った時は生きる為に知恵を使えばいい」
学力はないが生活の知恵は、貧乏暮らしとおばあちゃん達を見てきたおかげで養われた気がする。
食材は殆ど捨てず調味料等は買えなくても他で代用したり、使える物は何でも利用して極力無駄を省き、金をかけないのは貧乏には欠かせない。
諦めたら餓死寸前になるので、道端に咲いている花の蜜を吸ってオヤツ代わりにした事もある。
親がパチンコで負けすぎて食費がゼロになった時も工夫を凝らしてきた。
「今……使える物って何だろう」
相手の空間に入ったら双棒も使えずもしかしたら眼だって役に立たないかもしれない。
絶対的なテリトリーの中で使える物等何もない。
一つ気になると言えば、ガーニョとの妄想ヨガ教室体験レッスンで現れた巻物だが、急に使いこなせる筈もない。
エピナルさんも今こんな気持ちで一人で考えているかもしれないが、私がもっと強ければ助け出してあげる事も出来た。
弱い者は抵抗も出来ず命を落とす環境と言っていた、ガーニョの言葉も突き刺さってくる。
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