レディ達の覚悟

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「殺されそうなのに何も出来ない……化け物でもないただの弱い者だったわ」 このカフェでずっと長居も出来ないので、ハシゴをしメニューを変えながらトイレにも行き時間を潰していた。 と言っても一つのカフェで一時間位は考え事をしていたので、辺りの景色は段々と暗くなっている。 何度もお茶をしたので若干水っ腹だし、トイレを済ませると、鏡で自分の顔を見つめ両手で頬をそっと押さえた。 『覚悟を決める……しかない!』 職場に連絡しても内容を話すと死んでしまうし、今までもヘルプはすぐ来た事がないので、結果殺された後に到着かもしれない。 相手は妖怪エリアを行き来できる化け物なので、もしかすると死体すら発見されず、別空間で処分されるかもしれない。 完全犯罪も余裕な相手に黙って殺されるしかないとすれば、何とか爪痕というかサスペンスでよく見る痕跡残しをしておきたい。 刑事役が殺されるシーンでは犯人をワザと引っかいたり噛んだりして、その後の鑑識で発覚するようにしていた。 靴裏に現場の土や植物の花粉をつけて科捜研で発見したパターンも観ているし、暗号化されたダイイングメッセージを考えるという手もある。 「いやそんな頭良くないし、基本死体が発見されてナンボの話だよな……」 海外ドラマで観たプロの殺し屋は遺体の処理係を呼び、痕跡を消していたし部屋も掃除して何事もなかったかのように証拠隠滅をしていた。 そんな処理班を呼ばなくても、ワンタッチで自分で証拠を消してしまう妖怪なので、ドラマの知識は役に立たないかもしれない。 でも会社のカードを使って食事や茶をしているので、そこを辿ればこの場所に居たという事は分かる筈だ。 もう一度手を洗ってリュックからハンカチを取りだそうとすると、木村さんの心遣いに目頭が熱くなる。 着替えやオヤツに回復用のパン、スプレーの他に薬類もポーチに入っていて、中には『腹痛用』や『胃もたれ』とマジックで大きく書かれた袋が纏めてある。 解毒や目薬もあり毎度ながら頭が下がるし、小学生の持ち物並みに大きく名前も書いてあるが、木村さんが老眼で見えないという理由もあるかもしれない。 思わず口角があがると食べかけのパンも袋も出し、綺麗に整理しながら詰め直していた。
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