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仕事関連の人と話すと、大抵何かを頼まれるか、巻き込まれるのが関の山だ。
母達を探しながら進んだが、いつも居る辺りに姿がなかったので、これ以上深入りしても行き違いになりそうだと踵を返した。
「駐車場で待とう。今日は人というかお嬢さん方が多いし、チケット渡してお茶と菓子を貰いズラかるとしよう」
いつもチケットを持って庭に入るが、結局奥で沢山お菓子を貰いラッキーが続いていたので、たまには正式に交換して平和に帰るのもいい。
彩響さんはボンボンだしチケットを持って庭まで来ないと読み、人に紛れながら茶を配るお姉さんのところまで戻った。
「いたいた、あの姉さんの前に人だかりがしてる」
バイトで着た制服姿の人を発見し、チケットを持ちマダムの後ろに並ぶと、周囲に気を配る。
瑠里達を見つけたら、ここに居る事を知らせないとはぐれるし、万が一彩響さんが来たら諦めて駐車場に戻るしかない。
どんなお菓子か気になりつつ順番が回ってくると、紙コップのお茶と包みを手渡し笑みを浮かべる姉さんが天使に見えた。
「良かったら傘の下で食べて帰って下さいね」
「……はい」
営業用のスマイルだと分かっていても、丸々一個菓子を試食させてくれる太っ腹さがプラスされ、女神に見えてしまう。
一瞬家族を探している事も忘れ、勧められた傘の下まで歩くと、人が沢山座っていたので空いた場所がないかと見渡す。
「良かったらここどうぞ」
「すみません」
少しずれて席を空けてくれる好青年は、満足そうな顔で口を動かしているので、お菓子が美味しかったに違いない。
男性の膝一つ分位の狭いエリアだが、おばさんが電車で席に割り込むように、器用にお尻を乗せお礼を言った。
譲ってくれたのが彩響さんだとしても、周りにマダム達もいるし、仕事の話は無理そうなので『偶然居合わせた人』として隣に座る。
金持ちでもここの菓子は別腹か視察目的かは分からないが、唯護さんも前に出会っているので、TBカフェの人は好きなようだ。
「檸檬どら買いました?」
「少ないけど買いました、試食美味しかったです」
「女性が好きそうな味ですよね、ウチもレモン系のスイーツ出たんで、良かったら来て下さい」
先程までとは違い、仮面をつけてる気がしたので、もしかすると誰かに顔バレしよそいきキャラを作ってるのかもしれない。
だとすれば好都合なので、この隙に茶を飲み菓子はポッケに入れ、駐車場に戻ろうと急いで流し込む。
「そのお菓子はどんな感じ?俺のと包みの色が違うから気になって」
「えっ、勿体ないから帰ってから食べようと思ったんですが」
「美味しかったら買って帰ろうかと。家で食べてからだと後悔しない?」
「たとえ美味だったとしても、次に買いに行くまで耐えるんで、全然問題な……」
間近でこちらを見る顔は『今食べろ、何なら俺にも一口分けてくれ』と書いてあり、渋々ポケットから包みを出した。
それに、膝がぶつかる程の至近距離からイケメンに見られると目力もあり、妖怪エリアの人なので断ると面倒そうだ。
恥ずかしいので目線は下げ、包みを開けるとぷっくりとした饅頭が顔を覗かせ、半分に割り中身を確認した。
「わぁ、柑橘系の匂いがするけど……白あんだ」
「やっぱり、俺のは粒あんだったけど皮が凄く美味しくて。味が違うとどうなのかな?気になる」
更に覗き込むので『近い』と注意したいが、この人の気持ちも分からなくはないので、半分譲る事にした。
「いいのっ?」
「どうぞ、じゃあこれで失礼します」
駐車場に向かい残りを口に入れると、爽やかだけど甘さもあり、外の皮もねっとりして美味しいのであげた事を後悔した。
「うんまっ、これ」
三個ぐらい買って帰りたいが、さすがにそんな量では恥ずかしいので、今回は我慢する事にした。
「粒あんの方も美味しかったよ。こっちも捨てがたいし買って帰ろうかな。家でもずっと、頭の中でクルクルしそうだし」
ボンボンなんだから買えばいいだろと思ったが、いつの間にか横を歩いてる彩響さんと距離はあけた。
「今度ピアノの演奏会に唯護が出るんですが、七千円あげるから応援に来てと言われて。まぁ、断ったんですけどね」
話しかけるなとオーラを出しているつもりだなのに、お構いなしは親族の共通点かもしれない。
「目上の人の頼み事がそんな額で断ったものの、考えたらそんなお願いされたのは初めでて。どう思われます?」
「えっ?よく知らないのでお答えできかねますが、一つ言えるのは……私は以前その金額で一ヵ月を過ごしていたという事です」
向こうは話のネタとして『せめて一万円以上でしょ』と同意を求めたかったのかもしれない。
だが予想外にこちらとフィールドが違い過ぎたようで驚いた表情だった。
「極貧だったんで、小遣いも自分がバイトした時だけでした。昼の食事代込だから実質もっと少ない額でしたし、応援するだけでくれるならいい話に聞こえます」
「そっか……でも今は稼ぎいいから断るでしょ?」
「どうですかね?美味しいバイトだとは思います。ウチなら、お金を出しての頼み事ではなく無条件なんで」
口を開けば墓穴を掘り、相手の声が段々小さくなっていたが貧乏話は長引くので、これ位で止めておいた。
「事情は知りませんが、滅多にないなら応援してあげたらどうです?命に関わるような内容でないなら」
「それが、断って仕事の予定が入って……だから逆に頭から離れず気になってんだよね」
『知らねーよ!なら誰か代理を立てるなりすればいいだろ』
特に仲がいい訳でもなく偶然出会っただけで、こんな話題をする気持ちは分からないが、軽自動車が見えたので打ち切る事にした。
「じゃあ、あの車なんでこの辺で」
「まだお母さん方居ないよね。もう少しいいでしょ、丁度飲み物も買ってあるし」
金持ちだし多めに買ったのかもしれないが、藤井屋まで来て飲み物を自販機で買うのは不自然なので、話をする気だったと思われた。
車を教えた事で中に人が居ないとバレてしまい、仕方なく缶コーヒーを受け取りお礼を言ったが、どうでもいい話につき合うのは気が重かった。
「一週間後なんだけどね、もし良かったら代わりに応援行ってくれると助かるんだけど」
「いや、そんな場所に着て行く服もないですし、そういう役はもっと関りのある人が向いてません?」
「皆予定があって。職場にバイトの許可が必要なら、それがクリアしたら考えてくれる?」
「じゃあはっきり言いますけど、今までピアノの演奏会なんてご縁がなく、そういう金持ちイベントは苦手なんです」
ふぅと一呼吸し、この話は終わりだというようにコーヒーを飲んでいると、庭の方から母達が歩いてる姿が見えた。
「ご馳走様でした。瑠里達も戻って来たんで失礼します」
「あ、ホントだ。ついでだから挨拶しておこう」
妖怪エリアのくせにこういう空気は読めないのかとイラッとするが、母達に向かってお辞儀する背中に、用が済んだらすぐ帰れと心で念じた。
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