始まりは二学期から

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「それがだな。書道パフォーマンス甲子園てのを目指してるわけだよ」 隣の席に着く長峰の方に、宇岩田はぐっと身を乗り出した。 「何それ。聞いたことない」 「うそお、映画にもなってるだろ。さてはお前、テレビ見ないクチか」 まだ話している途中でチャイムの音が被る。時間厳守の担任が、いつもとピッタリ同じ時間に教室に入ってきた。そこで彼らの会話も途切れる。日直の「起立」の声と共に、ガタガタ椅子を鳴らしながら立ち上がった。 ーー俺は、絶対に出場したい! 宇岩田のメガネの縁がキラリと輝く。 書道パフォーマンス甲子園とは、全国屈指の紙の生産地である四国中央市で行われる書道の大会だ。 開催の目的は、「書」の本質を磨き、また新しい「書」の魅力を探求することによって、新しい「書道」を創造すること。そして書という芸術文化を通して地域間交流をすること、及び紙産業の振興、地域の活性化である。 至極簡単に言えば、縦四メートル、横六メートルの巨大な紙に、でっかい筆で、想いを込めたメッセージを仲間と書き上げる高校生たちのパフォーマンスなのだ。 宮古都高校書道部は今年、動画と写真による予選を通過できなかった。そして宇岩田自身は選手十二名、補欠三名の中にも入れなかった。予選の申し込みをした五月初頭までは二十人もの三年生部員がいたので仕方ない。 そして三年生が抜けた今。彼一人になった書道部には、どうしても部員が必要だった。
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