「願」

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「願」

遂に迎えた、約束の火曜日。視聴覚室に呼び出された壇と木崎の後ろを、もう一人、巨大な男が着いて歩いている。縦に長い顔なのに髪型はモヒカン。短ランを身につけ、ズボンはぶかぶかしていた。 「なんでお前まで着いてくんだよ、雅彦」 木崎が多少面倒臭そうに振り返る。彼は毛虫のような眉毛を片方上げた。 「良太郎が昼寝しねえでわざわざ見に行くなんて、よっぽど面白いものなんだろ?」 「知らねえよ」 眉根を寄せる木崎。その横で壇が溜め息をついた。 視聴覚室の戸を開けると、千春と白河が顔を上げて三人を見た。 「あっ、来たきた」 笑顔で迎える千春。彼女は制服だが、白河は学校指定一年生用の濃紺のジャージを着ていた。 「あ、おめえ、七組のバカ侍だろ」 モヒカンが白河を指差す。彼は大きな目の端を吊り上げて、頭部が大きい相手を睨んだ。 「意味が分からんな」 不愉快そうに白河は鼻を鳴らす。 「本当に誰?」 千春が彼を親指で差し、壇に尋ねる。彼は呆れたような目で大男を見た。大男は顎をくいと上げて上から目線。白河は逆に顎を引いて下から目をぎょろりとさせて睨んでいる。 「五反田雅彦。俺たちのクラスメイトっす。良太郎にくっついてきたんですよ」 「てめー、気色悪い言い方すんな」 「いてっ」 木崎が壇の尻を蹴る。制服の黒ズボンに上履きの足跡がしっかりと付いた。 何となく漂う嫌な雰囲気を散らそうと、千春はパンパン、と拍子木を鳴らすように手を叩いた。
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