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訪れた男
竜二は今、自分の前に構えることもなく静かに立っている男に不思議な圧力を感じてい
た。別に威圧するような眼光でもない。
今から拳を交えようとしているのに、その気迫も感じられないのにである・・・。
その男は、突然やって来て高村先生にお会いしたい。
と、応対した者に告げたそうだ。
先生は2年前に他界されたと伝えると、それでは寺島さんにお会いしたいと言ったそうだ
。つまり自分である。
それから十五分程後、二人は道場の真ん中でこうして対峙しているという分けである。
竜二は格闘の世界では小柄な方であるが、当道場では四天王と呼ばれ、その世界では全
国でもその名を知らぬ者はないほどの格闘家である。
身長は173センチ程だが、道着の下に隠された筋肉は大型選手に勝るとも劣らない性能を秘めている。また、それより素晴らしいのがそのスピードだ。まさに野生の小動物並の動きが出来る。
思うところあって、いつも無差別の試合で戦う竜二に、相手の選手はついその小柄な姿
を見た時つい油断をしてしまう。心の中でシメタと微笑んでしまうのである。
そしてその時、その気の緩みがスキとなり試合が終わっているのである。
ただ実力が知れ渡った今では、そんな事はなくなっていたが・・・
しかし今その反対の現象が起きていた。
いつも大型の格闘家と戦っていた竜二は、最初その男を見た時つい軽く見てしまった。 しかし、直ぐに自分の間違いに気付いて気を締め直す。間合いが近づくにつれ、さすがに鍛えた身体が、その間違いを教えてくれたのであった。
その男の身長は、竜二より少し高い175センチ位か。体重は竜二より少し軽い70キ
ロを少し超える程度か?
二人とも太って見えないのは鍛え抜いた密度の濃い筋肉を持っているからだ。
普通の男より10キロ程度は見た目と誤差がある。
年齢は?竜二より一つ二つ下の20歳程か・・・?
いま二人の間合いは2mまで近づいていた。
竜二は今までに経験したことのない緊張感を味わっていた。
何百回と戦ってきた自分だが、2mクラスの大男と対戦したこともある俺だが、こんな
心境いは始めてのことだ。
恐怖心ではない。
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