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「え?うん……」
「何でもする、とも言ったな」
「うん」
此処迄言っても、まだ真意が分からず只素直に頷く錦の純朴さは、一刀には堪らなく可愛いらしくて。一刀は、錦の耳元へ唇をあて囁いた。と、其の言葉にみるみる顔を赤らめる錦。瞳も潤み出し、遂には顔を隠してしまった。
「そ、そんな……で、出来ないよ……っ」
「約束したろ」
口角だけで笑顔を作る一刀。意地悪な其の笑顔は、想い人を困らせる幼子の様で楽しそうにも見える。此れも、錦にしか見せない顔なのだと、当の錦は知っているのだろうか。誘い、惑わす様に乱れた衣より覗く錦の肌を愛撫する一刀。錦が、一番声に艶を出す処を。
「あっ、やぁ……い、意地悪だ……!やっぱり、一刀は、助兵衛じゃないかっ……!」
優しく触れる指に翻弄されつつも、抗議する錦だが。
「でも、惚れておるだろう」
軽く往なし、錦の肌へ口付ける一刀。
「んっ……意地、悪……っ!」
果たして、一刀は何を要求したのか、義理堅い錦はどう答えたのか。
何はともあれ、濃き一年が去った。愛する人に求められ、求める幸せを手に入れた、ちょっとひねくれた能面君主様とお人好しな引きこもりの皇子様。共に迎えた新たな春、此れから先の刻も互いのぬくもりに触れ、刻めたなら――。
此処は、四季が在る美しい処。
春は、咲き乱れ舞い散る桜に思いを馳せよう。
夏は、日差しが和らいだなら恋に身を焦がす蛍に魅せられて。
秋は、夕暮れの中更に赤く色付く紅葉を見詰めて。
冬は、穢れなき白に染まった景色を眺めよう。
ずっと、ずっと共に。
此の美しく素晴らしい、ひいづるところにて。
――完。
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