二つの國。

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 数多ある世界のひとつ。其処に存在する、広い広い大海に浮かぶそこそこ大きな島。此の島は、四季が在る美しい処。元は島全体で『ひとつ』だったが、とある事がきっかけで国が東と西、二つに割れてしまったのだ。其れも、もうどれくらい昔の話になったろうか。付かず離れず、曖昧な関係。何より武の道を重んじ、世の先駆けとなる東の国。何より雅を重んじ、心豊かに在るべきとする西の国。文化は酷似しているも、其れは異なる二つの国なのだ。  其の在る世に西は、正しき血統を受け継いだ皇女(ひめみこ)と皇子(みこ)が一人ずつ誕生していた。第一子となる皇女は絶世の美女と謳われた母后に似て美しく、聡明なのは勿論、気品を備え、更に雄々しさをも合わせ持つ正に才媛。此処では通常、性別違わず國をおさめる帝(みかど)なる者が認めた第一子より順に皇位の継承が行われるのが慣わし。両親は、才ある皇女の成長に多大な期待を寄せていた。そして第二子となるは、玉のような男子(おのこ)、皇子である。皇子も先に生まれた皇女以上に母后に似て美しく、聡明、穏やかで優しい心を持っていた。しかし、国が期待する雄々しさだけは持ち合わせていなかったが。武術は苦手で、何より誰かを傷付ける事を酷く嫌う性質。風雅を好み、庭の草花を眺める以外は、一日書庫に籠りきりになる事も。内向的な事もあり、徐々に人を避ける如く公の場へ姿を見せる事も減ってしまい。遂には、家族と身近な家臣以外の者は近付けなくなってしまった。  人を避ける皇子は、世捨て人の如く孤立。最早民は勿論、御所にいる者ですら殆どが、西に皇子がいた事を忘れる程に印象の薄い存在となる。更に、姉である皇女があまりに目立つ事も要因やも知れぬ。美しい皇女が軍にも加わり、刀を携える勇ましき姿。気性も父帝に似た皇女は、正しく天へ昇りきった眩しい日の光。次世代を担うに相応しきと期待される女帝であると。国内では、そんな皇女の話題しか上らないのだから。
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