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「依頼者は私の兄です、兄が亡くなった弟の弔いの為に毎年作っていました。命日なるとスーツを仏壇に捧げて手を合わせて──」
「そうでしたか」
それにしても、小さいような……。
私の疑問が判ったのか、女性は微笑み続けます。
「弟が亡くなったのは、73年前です。終戦間際でした。まだ中学生だったのに、軍需工場へ向かっていたところを空爆で……戦地に赴いたのに生きて帰った兄は、それをずっと悔やんでいました。復員して結婚もして幸せに暮らしている事を、ずっと悔やんでいて──5年前ガンが見つかって、俺にもやっとお迎えが来るって喜んだほどで」
「……そんな……」
言葉を失った私に、女性は微笑んでくれました。
「弟にプレゼントするんだと言って、自分が社会人の頃に着ていたスーツを弟のサイズに作り替え始めたのはその頃からです。真新しいより、俺の汗が滲んだ物をヤツに渡してやる、思い出も語らいたいと言って。今でこそスーツも安く手に入りますけど、昔は頑張って買いましたからね、そんな苦労話も物を見れば真実味があるだろうって。ごめんなさいね、そんな道楽のような事に付き合わせてしまって」
「いいえ……お客様のお気持ちに沿うのが一番ですので……」
それで、それで……小泉さまは……。
女性は涙をハンカチで拭って、震えた声で教えてくれました。
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