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透が、仲居の女性が持ってきたナイフでケーキを切り分ける。
「このチョコレートは、やっぱり誠司さんが食べますか? ……誕生日じゃないですけど」
ケーキの真ん中にのっていた「HAPPY BIRTHDAY」の文字が書かれたチョコレートを指差し、透が笑う。
水神もふふっと笑った。とんだ勘違いだったけれど、本当に嬉しいサプライズだった。透が一生懸命にやってくれたことなら何でも嬉しい。水神は心からそう思う。
「……じゃあ、せっかくだからいただこうかな」
水神がそのチョコレートを摘まもうとすると――――
「待って……!!」
「……あ、うん」
急に透に制されたので、面食らった。
水神が食べることになったはずなのに、透はおずおずとそのチョコレートを摘まんだ。
そして、顔を赤らめながら、そのチョコレートを口に咥える。
水神の前にちょこんと正座した。
「ん……」
透は上目遣いで水神を見上げる。“これをどうぞ”と言ってくれているようだった。
「……このまま食べていいの?」
そう尋ねると、透はコクコクと頷いた。
水神は思わず口元を緩めた。
誕生日でもないのに、何と嬉しいプレゼントなのだろう。
愛らしくチョコレートを咥えている透の髪を優しく撫でた。
――――可愛い、可愛い透。
その気持ちだけで、水神はどうにかなってしまいそうだった。
「……透、目を瞑って」
透が素直に目を閉じた。
それを合図に、水神はチョコレートを咥えこむ。水神も目を閉じた。
徐々に音を立てて噛み砕きながら、唇を近付けていく。
口の中に広がる甘さ。それと同時に増していく、早く口付けたい気持ちと焦らして楽しみたいという相反する気持ち。
――――溶けていく。口の中で、チョコレートが溶けていく。
透の唇に触れた。何度目のキスかわからないのに、胸が激しく跳ねた。
――――キスだけで、こんなに熱くなる。
水神は、透とのキスにいつでも翻弄される。熱くなって、止められなくなる。いつも愛しい気持ちをいくら込めても足りないくらい、むさぼるようにキスをする。
透の舌が水神の中に入ってきた。
運ばれてくるチョコレート。絡み合う舌で溶けていく、チョコレート。
――――甘い。とてつもなく、甘いキス。このまま、身体まで蕩けてしまいそう。
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