口移しで、チョコレート

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「……ほんと、馬鹿みたいな話。こんなことならレーシックなんてやらなきゃ良かったーって何度も思ったんだけどさ」  水神がそう言いながらお湯の中で一つ伸びをすると、透はクスクスと笑った。 「あー。透の嘘つき。笑わないって言ったのに」 「ふふふ……だって……」 「“だって”、何?」 「……誠司さんにも、そういうおっちょこちょいな、人間らしいところがあるんだなぁと思って」 「何だよ、それ。俺は普通の人間だって」 「そうでもないですよ?」 「えー、何それ。俺が普通じゃないみたいじゃない」  透は嬉しそうに「普通ではないですね」と言って笑った。 「……透、ひどい」  水神はそう言って、透を引き寄せて唇を奪った。お湯の中で触れ合う裸の感触も、滑らかでとても心地よかった。 「……透が悪い子だから、お仕置きしちゃおうかな」 「んっ……だめです、のぼせちゃうから」  透は水神から身体を離し微笑むと、今度は透から水神に口付けた。 「……誠司さんは、僕の自慢の恋人です。普通じゃないですよ。誰よりかっこよくて、優しくて、素敵な物語を作れる、僕の理想を全て詰め込んだ、王子様みたいな……」  今度は、水神が顔を赤くする番だった。 「……参ったな……」  あまりに嬉しくて、言葉にならなかった。  “王子様”などと呼ばれるのは初めてのことではない。今まで何度も言われたことがある。そんな言葉は嬉しくはなかった。むしろ女性たちから“王子様”などと言われれば、辟易していたくらいである。薄っぺらい言葉にしか思えなかった。  “君たちは俺の何を知っているの?”  いつも思っていた。やれ素敵だ、かっこいいだなんだと騒ぐけれど、こちらは本音を語ってもいないのに何をもってこれ程までに付き合いたいと距離を縮めてこられるのか。  ステータスしか見ていないに決まっているから、水神はいつもそんな人たちを遠ざけてきた。  けれど、透に言われるとこんなにも受け止め方が違う。  透の口からそんなことを言ってもらったのは初めてだった。  水神は、本音をさらけ出しているのに透の理想どおりになれているのなら、こんなに嬉しいことはないと思った。  透だけは、今まで出会ったどの人たちとも違う。  水神の素敵でも何でもない一面を知っても、こうして微笑みかけてくれる。
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