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「本当に嬉しい。大好きな透がそんなふうに思ってくれるなんて……」
水神は、透の手を握った。
お互い、じっと見つめ合った。視線にありったけの「愛してる」という気持ちを込めれば、それ以上の言葉はいらなかった。
どちらかということもなく、二人は唇を重ねた。
「……そろそろ出ようか。本当にのぼせちゃうよね」
「はい……」
唇を離して、二人は照れくさそうに微笑み合った。
露天風呂から出ると、エアコンの効いた部屋の涼しさが心地よくて、ふぅと息が漏れた。
水神は、棚からバスタオルを取り出し、透の身体を丁寧に拭いてやる。少し癖のある透の髪を優しくバスタオルで擦ると、透が気持ち良さそうに目を細めた。髪が次第に乾いてきて、ふわふわになってくる。
「……ふふっ」
「ん? 何ですか?」
「……いや、何か子犬みたいでさ」
水神がそう言って笑うと、透は少し不満げに唇を尖らせた。
「えー、どういう意味ですか?」
「ただただ可愛いってことだよ」
水神は透の髪にチュッと一つキスを落とした。
本当に、可愛くて仕方ない。気持ち良さそうに目を細める表情も、ふんわりとした柔らかい髪も。全てが愛しい。
もう透に夢中で、透のもの何もかもが可愛くて愛しくなってしまうのだ。飽きることや愛想が尽きることなんて、全く想像ができなかった。
「……僕も拭きましょうか?」
「透はいいよ。俺が勝手に透のお世話をしたくなっちゃうだけなんだから」
水神は自身の頭をガシガシとバスタオルで強く拭いて、棚から取り出した浴衣を羽織る。手慣れた様子で前を合わせて浴衣の帯を締めた。
水神がふと透に目をやると、透が浴衣を羽織ってまごまごとしているのが見えた。
「透、どうした?」
「えっと……浴衣なんて滅多に着ないんで、手間取ってます」
透は正直にそう答えた。
「左前は亡くなった人と同じだからダメって言うのはわかるんですけど、えーっと……」
「あ、なるほど。左前がどっちだかわからない訳だね」
「あ、はい。お恥ずかしい……」
少し顔を赤らめた透の前に、水神が跪いた。水神が透の顔を見上げると、透と目が合った。
「……僭越ながら、わたくしめがお世話させていただきます。お嬢様」
おどけながら執事のように胸に手を当ててお辞儀した水神に、透はいっそう顔を赤らめる。
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