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仲居の女性が運んできたのは、一つのそれほど大きくない白い箱だった。それをテーブルの上に置き、また甲斐甲斐しくお辞儀をしてすぐに部屋から出て行った。
水神は立ち上がり、まじまじとそれを見つめた。
「……透、これは?」
水神がそう言うと、待ってましたとばかりに透が笑顔で白い箱に駆け寄る。
「じゃーん!!」
珍しく、透が明るくおどけながらその箱を開けた。
「……ケーキ?」
箱から出てきたのは、デコレーションされたホールのチョコレートケーキだった。
「……誠司さん、誕生日おめでとうございます!!」
透はそう言って水神の元へ駆け寄り、笑顔で水神の腰に手を回して抱きついた。
ケーキを見れば、確かに上のチョコレートのプレートにホワイトチョコで「HAPPY BIRTHDAY」などと書かれている。
「……びっくりしました?」
透が満面の笑みで水神を見上げた。その顔はどこか誇らしげである。
あまりにその表情が可愛かったので、水神は透にガバッと抱きついた。力をこめて透を抱き締めた後、その両頬を包んで乱暴に唇を奪った。
「んっ……誠司、さ……」
「……びっくりしたよ!! ……何これ、めちゃくちゃ可愛い。俺のために一生懸命計画してくれたの?」
「あ、はい……旅行の計画が決まった後に……」
「……本当にありがとう。すごく嬉しい……!!」
「喜んでもらえて良かったです……!!」
透は頬を赤く染めながら、うっとりと水神を見つめている。
「……ところで透」
「はい」
「俺の誕生日って、誰から聞いた……?」
実は、水神は誕生日を非公表としている。その方がミステリアスなイメージを保てるという編集部の戦略もあったが、顔写真を公開してから編集部にしょっちゅう女性から水神宛のプレゼントが届くので、誕生日を公表すれば大変な騒ぎになってしまうというのが主な理由だ。
よって、どの水神の著書にも水神の誕生日は記載されていない。透が水神の誕生日を知るとすれば、水神に直接聞くか、免許証などを盗み見する、誰かに聞くという選択肢しかない。
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