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「あ、えーっと、実は……」
話は、一週間程前に遡る。
透の会社では、お盆休みをカレンダーどおりに休めないので、交代で土日と有給休暇を繋げて連休を取るよう推奨されていた。そのため、透は水神との旅行に有給休暇を使おうと、柳田に申し出た。
「……ここの月曜日に休み取りたいんだな」
「あ、はい」
「わかった、それで調整しとく。どこか行くのか?」
こういうことをさらっと聞いてくるのが柳田だ。透は嘘を吐くのも苦手であるし、上手くかわせる会話のスキルもない。答えず口ごもるのもおかしいので、透は正直に答えた。
「はい、旅行に……」
「へぇ。どこに行くの?」
「栃木にでも行こうかと……」
「そうなんだ。温泉?」
「あ、はい……」
なかなか会話を止めてくれない柳田に、少し緊張してしまう。どこまで聞かれるのだろう。
対人関係を構築するにあたってはこのくらいの会話はありなのか。いや、職場においてはそこまで深く聞かなくてもいいのではないか。
プライベートなのでと突っぱねられたらどれほど楽かとも思ったが、そんなに頑なにプライベートを隠す程みんなに興味を持たれる人間でもない。
要は、透は考えあぐねているだけで、何も上手い答えを返せずに馬鹿正直に回答しているのだ。
「水神先生と行くの?」
「えっ……」
いきなりストレートにそう尋ねられて、透は酷く狼狽した。
何と答えていいのか、わからない。
「ははっ!! 顔、真っ赤だけど」
そこで初めて、柳田にからかわれたのだと気付いた。
よく考えれば、男同士での旅行などよくある話で、友人関係と言っても構わないし、作家の取材旅行に編集者が付き合うというのもよくある話だ。
別に狼狽しなくても良かった。狼狽して赤くなるから変に勘繰られるというのに。
「大丈夫だよ。あれだけ後押ししてやったんだから、二人が付き合ってることくらいわかってるからさ!! はははっ!!」
「はぁ……」
豪快に笑った柳田に、透は苦笑いするしかなかった。
「……そっか。記念日に旅行か……」
「え? 記念日?」
柳田がしみじみと言った“記念日”という単語に、透は食い付かずにはいられなかった。
「そうだよ、記念日じゃないか。……え? もしかして、知らないの? その日はさ……」
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