口移しで、チョコレート

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「……仕事、忙しい?」  二人で向かい合って夕食をとりながら、水神はさりげなくそう問い掛けた。  水神の作ったデミグラスソースのハンバーグを頬張りながら、透は幸せそうな笑みを浮かべている。 「……いや、最近はそんなには忙しくないです。僕は誠司さんしか担当してないですし、ピンチヒッターの仕事も落ち着きました」 「そっか。ここに来てから前より通勤が不便になっちゃったでしょ? 疲れないかなって思ってさ」 「あ、それは大丈夫です!! 僕、電車に乗るの好きなので。通勤時間も楽しんでますよ」  透の言葉には嘘がないようで、本当に楽しそうな笑顔を見せている。それを見た水神も思わず微笑んでしまう。  透と恋人同士になってから、水神は透と離れている時間を不安に思うようになった。  今頃何をしているんだろう、つらくはないか、疲れてはいないか――――そんなことをしょっちゅう考えてしまう。  もちろん執筆に集中しているときもあるけれど、透のことを思い出すたびに、自分がこんなにも嫉妬深くて過保護な人間だったのかと驚く。  一方の透は、水神に対して何も心配していないように見える。  それは裏を返せば、水神に絶大な信頼を寄せているということなのだろうが、水神は何となく不安を覚えている。 「誠司さん、ハンバーグ本当に美味しいです!!」 「……そっか。良かった」  いつまでも初々しい透。水神の料理を全力で褒めてくれる。可愛い可愛い、恋人。  抱き合えば、透は毎回疲れ果てて泥のように眠ってしまう。  水神はどうにも加減ができないのだ。好きすぎて、この手からこぼれ落ちてしまわないように、自分だけの愛しい恋人という証を求めたくて、毎回むさぼるように抱いてしまう。  透はその身体の結び付きをどう思っているのだろう。ただの疲れてしまう行為だと思ってしまっていないか。  透がそんな疲労する恋人関係というより、安心感を求めてもおかしくはない気がする。  そう思うと、最近は頻繁に抱き合えなくなってしまっている。毎日キスだけして、隣り合わせで眠りにつく。  もしかしたら、透はこの同居生活で、水神を家族のようなものだと思い始めているのかもしれない。
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