口移しで、チョコレート

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 そんな不安を抱えているのは水神だけであって、それは余計な心配じゃないか、とも思う。  恋人に安らぎを求めることは間違ってはいない。透は水神にいつも安心したような笑顔を見せている。それは水神にとって幸せなことだ。疲れた心を癒す存在で在りたいとも思っている。  それでも、身体を求めてしまうのは間違っているのか?  透の心だけじゃなく身体も欲しいと願うのは、いけないことなのか?  水神は、最近そういうことをよく考える。  愛情表現はセックスだけじゃない、それはわかっている。だけど、愛しているからセックスしたいと思う気持ちもまた、自然なのではないだろうか。  透を見るたび、抱き締めたい衝動に駆られる。  小振りなピンク色の唇に、むさぼるような激しいキスをしたい。  真っ白な肌の至るところに、赤い痕を付けてしまいたい。  細い腰を掴んで、何度も中に――――  止めどなく欲望が溢れてきてしまうことに、水神は戸惑っていた。  大切に大切にしまっておきたい気持ちと、壊れてしまうくらいに抱き締めたい気持ちと。  安心感を得られたはずの穏やかな同居生活は、いつの間にか水神に恋人関係の危うさを知らしめるものになった。  この安らぎを失いたくはないけれど、やっぱり他に求めてしまうものがある。 「……ねぇ、透」 「はい?」 「仕事落ち着いたんならさ、一緒に旅行に行かない?」 「旅行、ですか……?」 「うん。どこか温泉宿にでも泊まって、周辺の散策したり……駄目かな?」  この状況を打開するには、環境の変化が必要だろう。水神はそう考えた。  これが透と初めての旅行になる。  仕事や一緒にいる時間を優先した結果が同居になった訳であって、今まで二人は旅行どころかデートらしいデートもしてこなかった。  今まではそれで満足だった。一緒にいられることが、何より大切だったから。一緒に過ごす時間さえあれば、それで良かった。  水神の申し出に、透は驚いたような顔をした後、すぐに満面の笑みに変わった。 「全然駄目じゃないです!! すごく嬉しいですよ!! 温泉なんて久しぶりだから……」  透が本当に喜んでくれているのがわかった。 「良かった。じゃあ、私の方でいいところを探しておくね。週末に気軽に行ける関東圏の温泉地にしようか」 「はい!!」  そんな話に、無事まとまったのであった。
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