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「……よし。夕食まではまだ時間があるから、何しようか?」
午後3時にチェックインしたので、おそらく夕食までは3時間というところだろう。水神が腕時計を確認すると、正に間もなく3時半になるところだった。
水神は事前にこの近辺のおすすめスポットを調べておいたので、透の望むところに連れて行ける用意はあった。
今までの水神は、世の恋人たちはデートや旅行の計画、誕生日やらクリスマスなどのイベントをこなすのに大忙しで大変だな、と他人事のように思っていた。
どちらかといえば、よくそんなことまでやれるな、くだらないな、とすら思っていたかもしれない。
けれど、今ならわかる。世の中の恋人たちが、なぜそんなに夢中になっていろんなことに勤しむのか。
今回は、水神も夢中になって考えた。
初めてのデート、初めての旅行だ。愛しい恋人にはとにかく楽しんでもらいたい、喜んでもらいたい。
その気持ちがあれば、恋人のための行為など、苦労どころか楽しくて仕方ないのだとわかった。
「近くを散策してもいいし、お風呂に入ってもいいし……。3時間はあるから、いろいろできるよ」
水神が微笑みながら透にそう告げると、透はもじもじと顔を赤らめて俯きだした。
何だろう。変なことは言っていないはずだが。
水神は不思議に思いながら、透の顔を覗きこんだ。
「透……?」
「……あ、あの……お風呂に、入りたいんですけど……」
透が真っ赤になりながらそこまで言ったとき、水神はピンときた。
「……ああ、もしかして大浴場に一緒に行くのは恥ずかしい?」
水神と透は恋人同士だけれど、同性だ。当然、大浴場も同じところに入る訳であって、そこが巷のよくいる恋人たちとは異なるところである。
水神と透は、今まで家ですら一緒に風呂に入ったことがない。明るいところで裸を見る機会など、一度もなかったに等しい。透が恥ずかしがるのもわかる気がする。
「……あ、ち、違います……」
「え? 違うの?」
水神は予想が外れて驚き、目を丸くした。
一方の透はますます顔を赤くしながら、何とか口を開いた。
「……そ、そこの露天風呂に……一緒に、入りたいなって……」
透はそう言った後、湯気が出てきそうな程に耳まで真っ赤になりながら、「駄目ですか?」と消え入りそうな声で付け加えた。顔色をうかがうように、上目遣いで水神を見つめている。
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