はつこい。

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 呟きは、下からすくいあげるように押し当てられた唇に遮られた。 「ん・・・」  両手をそのままに、身をかがめた片桐が優しく唇をついばむ。  軽く伏せた茶色のまつげが頬を掠めた。 「・・・あのな」  頬を、瞼を、ゆっくりと唇で愛撫しながら、片桐が囁く。 「さっき余興で本間が記憶力のチェックとか言って、今まで付き合った相手の名前を数えさせられたんだけど・・・」 「え・・・」  思わず、少し身を固くした春彦の額に優しく唇を落とした後、こつん、と自らの額を当てた。 「お前の名前以外、まったく思い浮かばなかった・・・」  春彦は思わず視線を上げると、暖かな瞳に囚われる。 「お前だけだ、春彦」  静かな囁きに、胸が苦しくなった。  唇が欲しい。  そう思った瞬間、熱い吐息が春彦の唇をなぶった。 「ハル・・・」  甘い、甘い声が下りてくる。  下唇を強く吸われて、背筋が震えた。 「ん・・・」  軽く、何度も何度も角度を変えて唇を吸われているうちにだんだんと距離が狭まり、春彦の顔も仰向いていく。  ゆっくりと、幾度も交わされる口づけ。  いつの間にか春彦の両手は片桐のポケットに入れられたままでコートを握りしめ、身体はすっぽりと彼の両腕に包まれていた。  暖かい。  まなじりから一筋、涙が落ちた。
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