臼越市前根連1-6 築38年/2K6・6 波越線臼越駅徒歩5分 南向き/自社

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 携帯が鳴った。  着信の名前を確認する。明日香(あすか)とあった。  ここで一緒に住もうと思っていた彼女だった。 「明日香!」  そう声を上げ、慌てて通話の状態にした。  わたわたと耳に当てる。  ともかく向こうには何が聞こえていたのか詳細を聞こうとしたが、なぜか電話口に、刺々(とげとげ)しい感じの女の声が割って入った。 「だっ……」  誰だお前、と言おうとしたが、そう言うと、そのまま明日香に伝わるのだろうかと思った。  明日香に言っているように誤解されたら、またややこしくなる。巧海は口を噤んだ。 「ゆ……幽霊ですか」  通話口の向こうで明日香が言った。  何か知らないが、会わないうちに事情を把握したのだろうか。  有難いなあと思った。 「明日香!」  巧海は呼び掛けた。  途端に、目の端に何か動くものが映った。  風呂場の方からこちらの部屋へ、凄い勢いで、ぬいぐるみが走って来た。  何が起こっているのかと理解する前に、ぬいぐるみは巧海の携帯にドロップキックを食わせた。  何すんだこら、と声を上げそうになり、慌てて口を抑えた。  もはや現実の出来事なのかも混乱して分からなくなって来たが、下手なことを口にすれば、明日香との仲が余計に拗れる可能性があるのは理解した。  巧海は、畳の上に蹴り飛ばされた携帯を拾った。  ぬいぐるみが携帯にがっちりと抱き付き、通話口を塞いだ。  巧海は、力尽くで引き剥がそうとした。 「彼はあたしのものなの」  通話口を鼻先でツンツンつつくようにして、ぬいぐるみは言った。 「(うるさ)い、消えろ!」  巧海はそう言い、ぬいぐるみの背を掴んで携帯から引き剥がそうとした。  (ようや)く通話口に少し隙間が出来た。  巧海は顔を割り込ませるようにして叫んだ。 「明日香!」 「巧海、わたし分かったから。今から不動産屋さんと、親切な幽霊の方に相談するから」  電話の向こうで明日香が言った。  不動産屋はともかく、親切な幽霊の方って何だと思ったが、それよりも完全に通話できないようにされる前に、一番重要なことを簡潔に言っておくべきだろうと考えた。  通話口とぬいぐるみとの間をググッと広げ、巧海は焦って叫んだ。 「結婚しよう!」  いや違う、と畳に手を付き俯いた。  言うつもりではあったが、こういう場面で言いたかったんじゃない。  まず何が聞こえていたのか確認だろう、と思った。  つい自分を咎めて隙が出来てしまった。  ぬいぐるみが携帯を持ち、通話を切ろうとしていた。 「あっ、くそっ」  手を伸ばし止めようとしたが、間に合わなかった。
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