石有珠市西居6-1 築14年/戸建て2Dk西向き 奥下急行千怒目駅15分/自社

1/2
前へ
/77ページ
次へ

石有珠市西居6-1 築14年/戸建て2Dk西向き 奥下急行千怒目駅15分/自社

 独り暮らしにも関わらず戸建ての家を選んだのは、事故物件ということで家賃が安かったのと、アパートほど隣近所に気を使わなくて良さそうだと思ったからだった。  住んでみると、家の周囲をぐるりと掃除しなければならないのと、戸締まりに少々手間がかかるのが難かと思った。  玄関に注連縄(しめなわ)を飾り、少し眺めて曲がっていないか確認すると、大石 柊吾(おおいし とうご)は「よしっ」と小さな声で言った。  就職を機に独り暮らしを始めて八年、ここに越してから三年目。  正月をここで迎えるのは今年が初めてだった。  例年は地元に帰るのだが、コロナ禍でお盆に続き断念した。  お盆は、地元にないこの地域なりの風習があるのだなと思ったが、正月は案外どこも同じ感じだなと思った。  実家からの御節料理も先ほど届いたし、あとはビールでも買って来ようかと近くのコンビニの方向を眺めた。  財布とコート取って来るか。  そう考えながら、少し冷えた手をセーターに擦り付けた。  掃き出し窓から室内を覗いた。  ここから直接中に入れば早い。  ガラス窓を開けようとして、柊吾(とうご)は手を止めた。  部屋の中央に設えた炬燵のそばに、カーディガンを着た小柄な人物が正座していた。  向こうを向いているが、高齢の女性のようだった。  何かがガラスに映っているのかと思い角度を変えて見たが、女性は確かに炬燵の(そば)の紺色の絨毯の上に座っていた。  柊吾は無言で、掃き出し窓のガラスに顔を近付けた。  息でガラスが白く曇り、慌てて少し離れた。  事故物件とは聞いている。  幽霊などあまり信じてはいないので、説明はほぼ聞き流す感じで聞いていたが、女性が亡くなったという話だったと記憶していた。  今まで霊現象らしきものは無かったので、全く気にしていなかったが、とうとう出たのだろうか。  意を決して、掃き出し窓をほんの少し開けてみた。  先ほど実家に勧められた甘酒を試しに作って、甘すぎてガスコンロの上に放置していた。その匂いが部屋中に漂っていた。  女性は、向こうを向いたままだった。  もう少し大丈夫かと思い、自身の顔の幅ほどに開けてみた。  カラカラと軽い音がした。まずいと思ったが、それでも女性はこちらを向きはしなかった。  まさか振り向いたら顔が無いとかじゃないだろうなと勝手に考えてゾッとした。 「あの……」  話しかけてみた。  実際に幽霊に会ってみると、意外と平然と話しかけられるもんだなと思った。 「ここで亡くなった方ですか……」  ストレート過ぎるかなと思ったが、他に言い方が思いつかなかった。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

135人が本棚に入れています
本棚に追加