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 思わず欠伸がでる。なぜなら授業がとてつもなく退屈だから。何回言っても足りないくらい退屈なので、なんとなく俺は机に落書きを描く事にした。  女性の絵。描き終わって気付いたのだが、俺は無意識に鈴木さんを描いていた。  同じクラスの鈴木さん。時々少しだけ喋るだけの、俺が密かに思いを寄せている人。  自分で自分が恥ずかしくなり、しかし関係もなく欠伸が出て、もう限界、と机の上に突っ伏して寝た。  授業が終わるチャイムが鳴り、それでも俺はかまわず寝ていた。次の授業の始まりを告げるチャイムが聞こえて、そこで初めて目を覚ました。  次は英語だった。英語の授業は机をそれぞれ一塊にくっつけて、グループになって英会話などをするのだが、この時、なぜだかは分からないが皆、別の席に移動する。  授業が始まり、俺はいつもの席に移動して、ふと気づく。  あの落書き、ちゃんと消したっけ?  急に顔が熱くなってきて、鼓動がはやくなる。  確認したくはないが、そうもいかない、と思い自分の席を見た。そして俺はどこか洞穴にでも入って死んでしまいたいと思った。  鈴木さんが俺の席に座っていたのだ。  あああ! と叫びながら頭を掻きむしりたくなる衝動を必死に抑える。  絶対キモいって思われた。終わった。  や、待てよ? そもそも、鈴木さんが、あの絵の女性が自分だと気づくだろうか。気付かないだろうし、だったら全く問題ないのではなかろうか。  いやいや、机に女子高生の落書きをしているなんて、それが鈴木さんだと気づかれなくても気味悪がられる。絶対そうだ。  俺はため息をついた。    授業が終わり、席に戻る。俺の席をくっつけたグループがあの落書きについて何も言ってこなかったのは不幸中の幸いだった。なぜ不幸かっていうと、ちらちら鈴木さんの様子を確認していた所、机の落書きを発見する鈴木さんを目撃してしまったからだ。そこからは、もう、そっちに顔を向ける事は出来なかった。  忌々しげに俺は落書きを見る、と……あれ?  それを見て、思わず頬が緩んだ。 <綺麗な娘だね。田中君はこういうタイプが好きなの?>  そこにはそう書いてあった。
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