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向日葵 プロローグ
五月から2ヶ月通った夜勤の現場は今朝で終わった。
始発電車で帰った部屋は、この季節の朝でも薄暗い。
電灯を点けるかどうか迷いながら電源を入れたテレビの画面から、不条理な殺人事件のニュースが流れる。
「誰でもよかった」
犯人はそう言ったらしい。
チラリと見えたパトカーに押し込まれる若い男の目は虚ろで、網膜に何かが写っているとは思えなかった。
一瞬画面に映った犯人の瞳の闇から逃げるように電灯を点ける。
そしていつもの思考が巡る。
僕がこの世の中に生を受けたときに、誰かは喜んだのだろうか。
僕がこの世の中から消えるときに、誰かが悲しむのだろうか。
そんな疑問が時々過ぎる僕の心が病んでいるかどうかなんて自分ではわからない。
病んでいると言われたところでどうすればいいのかもわからない。
テレビの中からアナウンサーが、狂った犯罪を淡々と告げる。
同じなのではないかと思う。
動なのか静なのか、僕と彼の違いはそれだけではないのか。
茹だる暑さの湿った空気の中で不快な寝返りを続けながら、もしここで終われば僕の屍はどうなるのだろうと考える。
生まれたことも、死にゆくことも、できれば他人の迷惑になりたくはない。
生きていることが世の中のプラスではなくても、せめてゼロでありたい。
時計代わりのテレビの向こうで『未来』と誰かが言う。
未来・・・
子供の頃はどうだったのだろう。
母に捨てられるまで、僕は未来を信じていたのだろうか。そう思って可笑しくなる。
考えることなんかできなかったはずだ。
まだ赤子だった僕を施設の前に置いたとき、母は悲しかったのだろうか。ほっとしたのだろうか。
僕は生まれてきてはいけなかったのかもしれない。
それでも生きてしまっている僕に、どんな未来があるというのだろう。
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