向日葵 2

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*  その日も相変わらず暑かった。  そう言えばここのところ雨が降っていない。焼けたアスファルトは冷やされることもない。  昼休み、通行禁止になっている水路に沿った地下道に行ってみる。おそらく通行禁止になるまで彼女が通勤に使っていた地下道。       1メートルほどの幅の水路に沿って、人がぎりぎりすれ違えるくらいの通路がある。柵はない。本当は水路の維持のためにだけ作られた地下道なんだろう。  彼女はここを通っていたのだろうか。防犯上まちがいなくよろしくない。  真昼間のこんな時間でも通路内は暗かった。申しわけ程度の数ヶ所の電灯の明るさだけが薄暗い中を照らす。  入口に張られたロープをくぐって中に入った。思ったとおり少し冷んやりとする。  山からの雨水を近くの田畑へ、そして川へと流す水路の水は留まってはいない。流れる水が自然のクーラーになっている。安全ではないが、少なくともアスファルトを進むよりは涼しいだろう。  そして気がついた。かなり天井が低い。僕でも少しだけかがむ。この姿勢であちらに小さく見える出口まで行くのは厳しい。  そうか、彼女は背が低い。彼女の身長ならここを屈まずに通れるのかもしれない。  通行禁止になっている通路にペタンと座った。水路は穏やかに水が流れ続ける。チョロチョロという音が通路内に響く。彼女がここを歩けば、この音に鍵のチャンチャンが重なるのだろう。そう思うと口元が緩んだ。  許されるぎりぎりの時間まで、そこに座っていた。もしかしたらクーラーを点けない自分の部屋よりここの方が涼しいかもしれないと思いながら現場に戻るべく立ち上がったとき、あちらの出口のほうで何か音がした。  地下道の中に響いた物音に奥を見たけれど、あまりよくわからない。誰かがいたのかもしれない。僕と同じように涼を求めて。  その日、仕事あがりの4時になっても、交代要員の学生バイトが来なかった。遅刻の連絡もないそいつのために、西日になってもまだ背中を熱する太陽に晒されている。  4時半になっても交代要員とは連絡も取れず、僕は上がることもできないでいた。 「兄ちゃん、すまんね。延長してくれた時間の分は払うからな。」  そんな現場監督の言葉が救いだった。  その少しあと、他人のせいでそんな目にあっても黙って働いた僕に神様はご褒美をくれる。
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