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早坂くんに面と向かって告白されてから一ヶ月が経過した。
それでも相も変わらず真夜中の逢瀬を重ねている私達の関係はなんと表現したらいいのだろう。
「あ、そろそろ私帰らないと。また明日ね、仁くん」
"美春"の姿の時にのみ許された呼び方と共にそう言うと、あからさまに端整な顔貌が歪められ、内心嬉しく思う。
「もう? 明日休みなんだからまだいればいいじゃん。それとも明日は本命とデートにでも行くの?」
おまけに嫉妬付きときた。
まさか、と苦笑混じりにそう返すと、より一層ムッとした表情になる早坂くん。
「……あくまで俺は二番手以下かよ。こんな最低な扱い受けたのは生まれて初めてだよ」
「仁くんのこと好きな女の子も皆同じこと思ってるよ」
「っ今他の女は関係ねぇだろ!?」
バンッ
テーブルを強く叩く早坂くんの剣幕にただただ圧倒されるばかりで、いつの間にかこのお店の利用客に注目されていた。
周囲の視線に気付くとハッと決まる悪そうにそっぽを向く。
「ごめん……怒鳴って。でも俺、美春ちゃんのこと諦めたつもりねぇから。それは覚えておいて」
そう言って伝票を挟んだバインダーを片手に早坂くんは席を立ってこの場からいなくなった。
ーー真夜中しか会えないのに、どう付き合うと言うのか。
第一、彼が愛しているのは"美春"であって"小春"ではない。
だからきっと、私の正体が不細工で冴えない女だと知ったら百年の恋も一瞬で冷めるに違いない。
それがなによりも怖かった。
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