真夜中のシンデレラ

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 ーーそもそも何故、私が学園の王子様に身の程知らずな思いを抱くようになったかと言うと。  ある日の出来事がきっかけだった。  ドンッ  学校からの帰路につく途中で、目の前を歩いていたお婆ちゃんが会話に夢中の男子高生のグループとぶつかりよろけて倒れる。  しかし彼等は膝をついて体勢を崩すお婆ちゃんには目もくれず、ゲラゲラと笑って何事もなく通り過ぎる。 「ちょっと!」  ーー我慢ならなかった。  たまらずお婆ちゃんの傍まで駆け寄り、男子高生のグループに向かって声を荒げる。 「人にぶつかったらまずは謝んなさいよ」  至極真っ当な正論を述べたつもりだった。  しかし一人の男子高生は面倒臭そうに振り返ると「チッうるせぇな」とあろうことか牙を剥いてきた。  てっきり己の失態に反省する素振りを見せるかと思いきや、こうも鋭い視線を投げられると普通に身が縮み上がる。  ーーその時、背後で「なにしてるの?」と見知った声が聞こえた。 「あんたら一人の女に寄ってたかって恥ずかしくねぇの」  早坂くんだった。彼以外にも派手な外見をした自分とは住む世界が違う友達が数人が立っていた。  一気に形勢逆転されたこの状況に「まだなんもしてねぇよ。アホくさ」と彼等は最後まで謝罪の言葉を言わずに捨て台詞を吐いて去っていったのだ。  その後、お婆ちゃんの体を支えて「大丈夫ですか?」と声をかけると「ありがとう」とシワの寄った目元を緩めてお礼を言われた。  いえいえそんな……と両手を前に振って否定していたら「ねえ」と後ろから話し掛けられる。 「ああいうの、やめた方がいいよ。ていうか無謀だから」 「!」 「お、おい早坂」  目をギンと見開く私に周囲の友達が「ごめんねこいつ性格きつくてさ」と代わりにフォローを入れる。  でも私は異性に冷たくされるのは慣れてるから全然傷付かなかった。  ーーそう、虚勢を張ってやり過ごそうと思っていたのに。 「女の子なんだから、もっと自分を大切にしなよ。危ないじゃん。怪我したらどうするの」  この人は、意図も容易く人の努力を無に返すんだ。  劇的な出会いを果たさなくとも女が男に惚れる理由なんて至って単純。                好きになってしまった。  不器用ながらも垣間見えた優しさがどうしようもなく愛しかった。  
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